【インタビュー】日本の子どもの貧困問題を考える②~川越子ども応援パントリーの活動より

この記事では川越で子どもの貧困問題解決に取り組む団体へのインタビューをお伝えします。(取材:尚美学園大学 音楽応用学科 イベントゼミ)

今回は、川越子ども応援パントリー代表・時野閏様にご協力をいただきました。


 

  1. 現在のお仕事と経歴を教えてください。
     サービス業・自営業・運転メインの仕事をしております。
     
  2. 現在行われている支援活動(「子どもパントリー」や「てらこや」についてご説明下さい。
     今は『フードパントリー』と『てらこや』の2つの活動です。

 
『フードパントリー』は、支援を必要としているご家庭に食糧を配布する活動で、生きていく上で最も重要な要素である”食”を支えるという目的があります。宣伝としては「レジかご1杯分」としていますが、実際はそれ以上の食糧を配布することができています。こういった支援によって節約できれば、浮いたお金で子どもの部費や教育費に充てることができるようになるなど、有効にお金を使うことができます。ただ、あまり配布しすぎてしまうと”自立支援”という目的からは離れてしまいますので、1つの地域につき2か月に1回の頻度でパントリーを開いています。食糧配布だけでは”貧困の連鎖”を解消することにはなりませんので、あくまでそこから抜け出すための手助けといった意味での活動です。
 ”貧困の連鎖”というのは、貧困家庭の子どもは十分な教育経験機会が得られないことから進学機会や就職機会の不利につながり、結果的に低所得にならざるをえず、なかなか貧困から抜け出せないことを表します。この問題を放置してしまうと、延々と抜け出せない人が増えてきてしまいますので、僕たちにできるのは当事者である子どもたちのサポートをして連鎖から抜け出せるようにすることです。特に、僕は子どもたちに”一生学び続ける力”を身に付けてほしいと考えています。これは文部省が挙げていた話なのですが、「勉強したい」と思ったときにいつでも学ぶことができる基礎的な学力をつけさせたいんです。この基礎的な学力を持って、例えばいつか自分が方向転換したいとなったときに資格を得たり、さらなる高みを目指してステップアップするための勉強ができるようになってほしいんです。大学進学が当たり前になってきている時代ですが、大学に行きたくても行けない子どももたくさんいます。少なくとも学力の面ではサポートしていきたいというのが、『てらこや』という学習支援活動の目的です。しかし、大学に行くことがすべてではありませんから、一生使えるスキルとして”学び続ける力”を得てほしいと考えています。“一生学び続ける力”に加えて身に付けてほしいと考えているのが、”しなやかに生きる力”です。何か問題にぶち当たっても、上手くかわして生きていける力が今後必要な力だと思うんです。学力が高くなくても、”しなやかに生きる力”があれば誰か人を頼ったりして次につなげることができます。僕が理想としている学習支援活動は、この2つの力を身に付けてもらうことですね。
 また、お寺というのは元々駆け込み寺というように困ったときに頼る場所ですので、子どもたちへ「何か困ったときはお寺に頼ってみよう」という情報発信の一環として、お寺でのイベントを開催しています。ですから、僕たちが行っているのは『フードパントリー』『てらこや』に加えて、『子どもと大人の居場所づくり』の3つが基本的な活動ですね。

 

  1. 「子どもの貧困問題」について支援活動を始められたきっかけは何でしょうか。
     元々保育園の保護者の活動をしていたということがベースにあります。それから、川越市に市民を交えて施策を検討してもらったりする審議会というのがあるんですが、そこで審議会委員・子育て委員として今年で15年くらい子育て施策・教育施策・福祉施策などについて考えてきました。川越市は大きい市なので思い切りのある施策を出しにくく、大きな変化を出すことが難しい市でもあります。目新しい施策があまりない中で、僕としてはもっと市の目玉になるような施策をやってもらいたいなとずっと思っていたんです。
     2018年になって、川越市がいよいよ「子どもの貧困」について調査する動きに出ました。当時、さまざまな事情で本気で調査に乗り出す市町村がなかなかなかった中で、川越市はかなり熱心に調査してくれる段取りになったのですが、そのタイミングで「市民として行政任せでいいのか」と考えました。やはり市民として行政を監視するという意味も含めて、より関心を持ってこの問題について広めていく必要があると考え、同年11月に『なくそう!「子どもの貧困」川越シンポジウム』実行委員会を立ち上げるに至りました。ここで進めてきたのは、「①市民への問題提起②市民をコーディネートし実際に支援活動をしていく」の2つです。まず、市民たちに問題提起していくと、活動に関心を持ってくれた市民たちが続々と集まってきてくれるようになりました。当時、貧困家庭の子どもへの支援活動というと「子ども食堂」という時代でしたので、「子ども食堂を始めたい」という声もあがりました。そこで、シンポジウムの準備をしつつ、その中で得た知識を活かして子ども食堂や学習支援活動を始めたい市民への情報提供を行っていきました。
     実際、子ども食堂が2つほどでき、2019年9月にシンポジウムを開いた後に「フードパントリーを開きたい」という声があがりました。なぜフードパントリーなのかというと、さまざまなところで子ども食堂が支援をしていきましたが、残念ながら「メインターゲットである貧困家庭の子どもたちが来ない」ということが分かりました。子どもの貧困対策になっている例ももちろんあるのですが、あまり本来の目的を果たしていない・そもそも利用者が来ない…なんて場所もあり、できては消える子ども食堂が少なからずありました。そこで、埼玉県で需要が上がったのが『フードパントリー』です。『フードパントリー』はある程度利用者を限定して支援をすることができるので、「子どもの貧困対策」という点では子ども食堂よりも遥かに実効的な支援策なんです。子ども食堂を悪く言うつもりは全くなく、それぞれに適した役目があると考えています。『子ども食堂』ではコミュニティづくりの場を提供し、『フードパントリー』では食料を提供しながら利用者の方々を次のステップとして子ども食堂へお繋ぎするといった役目を持っていると考えています。僕たちの場合は『フードパントリー』でありながら、コミュニティづくりの場でもあるように”疑似子ども食堂”を開いています。パントリーの会場の外にオープンカフェのような場所を作り、利用者の方々が寛げたり、僕たちとも交流が深められるようにしました。元々は『お寺カフェ』を開こうと検討していたのですが、このプロジェクトが進み始めた頃が今年の3月でちょうどコロナの真っ盛りでしたので、残念ながらこのプロジェクトは進められなくなってしまいました。しかし、6月ごろにはオープンカフェであればコロナ対策をしつつコミュニティづくりの場を提供できるということになり、そこへ音楽家の方々が協力してくださって音楽も楽しめる場となりました。
     パントリーでコミュニティを築けた頃に、子どもたちへ「一緒に勉強しない?」と声をかけていき、『てらこや』の活動を始めるに至りました。6月に休校措置が解除されましたが、経済的に余裕のない家庭やシングル家庭の子どもたちの中で、特に中学3年生の子どもたちが苦労していることに気が付きました。休校の間しっかりとした学習を受けることができず、さらに数か月後には受験が迫っているとなるとこのままではいけないと思い、中3の子たちには受験のバックアップをしつつ、小学生・中学生のコースを設けて、子どもたちが気軽に勉強しに来られるような環境を整えていきました。最明寺、本応寺でそれぞれ週に1回開いている『てらこや』では26人ほどの子どもたちが参加し、大変好評な活動となっています。ほかにもまだまだ支援を受けるべき子どもたちはいると思っていますが、まずは僕たちの手が届く範囲の子たちから支援を始めていき、しっかりサポートしていくことが大事だと考えています。
     
  2. “日本の”子どもの貧困にみられる特徴とは
     シングル家庭・相対的貧困である家庭が多いです。しかし、絶対的貧困の家庭も今後多くなってくるかと思います。コロナ禍での所得減や非正規雇用の増加などで、十分な収入が得られない人がいらっしゃいます。また、生活保護が打ち切られてしまい餓死されてしまった方のニュースなども耳にしますよね。一見、豊かに見えるこの日本でも”絶対的貧困”は存在します。しかし、やはり多いのは食べることに困るほどではないけれど、いろいろなものが欠如してしまっている方々ですね。
     
  3. “川越”における子どもの貧困にみられる特徴はありますでしょうか
     概ね、日本全体でみられる傾向と変わりないですね。しかし、市の周辺部・中心部での違いがあると感じています。一部の地域では、貧困に悩む方が多くいらっしゃるところもあります。
     
  4. 日本の子どもの貧困について調べましたが、“相対的貧困”に悩む人が多く、相対的貧困には「教育経験機会・人とのつながり・モノ」の3つの要素が不足すると学びました。そして、こういった環境で育つ子供には自己肯定感が低い傾向があるとも伺いました。支援活動を行われている中でこれらのことに関して、実感されたことはありますでしょうか。
     そうですね、まだじっくり話をすることができていないので「自己肯定感が低い」と一概には言えません。ただ、一つの例で言うと「得意科目が1つもない」という子がいました。勉強の面で自己肯定感が低いといえば低いかもしれません。しかし、ひとにはいろいろな側面がありますよね。勉強がだめでも、部活動では活躍しているかもしれない。これから、どんどん子どもたちと話をしていった時に、いろいろと問題も分かってくるのではないかなと考えています。
     それから、やはりこういった環境でいることに負い目を感じている子もいます。僕自身もあまり裕福な家庭ではなかったので、そういった思いをすることもありました。高校生の頃に奨学金を借りていたのですが、心無い一言で悲しい悔しい気持ちになりました。自分がそういう思いをしたからこそ、こういった活動をしているというのもありますね。本当に些細なことが子どもたちにとっては堪えてしまっているのではないかと思います。こういったことは活動の中でちょこちょこ感じますね。
     
  5. 活動を通して貧困が与える子どもの成長への影響を感じたことはありますか。
    またどういった影響があると感じましたか。
     僕が1番惨いなと感じたのは”経験の貧困”です。それが僕がこの問題について学び始めて1番刺さったことです。例えば、夏休み明けに学校の友達が「家族で海水浴に行ったよ!」「海外旅行に行ったよ!」といった話をしていても、「うちはお金がないからどこにも行けなかった…」と話すことが何もないというケースがあります。あるいは今通っている学校の学費を支払うのに精いっぱいの家庭もあれば、お金に余裕のある家庭の子は学校のプログラムでホームステイに行くことができたりと、恐らく学校の中でも経験の差ができてしまっているのではないかと思います。
     
  6. また子どもだけでなくその保護者に見られる傾向はありますか。
     利用者の中で多いのはシングルマザーのご家庭ですね。シングルファーザーの方もいらっしゃいますが、やはりシングルマザーの方が多いです。「どうしてシングルマザーの方が多いのだろう」と考えた時に、「離婚をした時、子供を引き取るのは未だに女性の方なのかな」と思ったんです。もし男性が引き取ったとしても、生活していくのに困らないほどの収入があったり、支援を受けるのが恥ずかしいと思っている方がいるのかなと。また、子どもたちだけでなく保護者の方であっても、貧困で悩んでいるということを知られたくないと感じていらっしゃいます。やはり、周囲の人や別れたパートナーにも知られたくないのではないかなと思います。その他にも、一部の利用者の方から聞くのは「シングルマザーだから…と優遇されていることに負い目を感じている」ということです。シングルマザーが優遇されているかといわれたら、そうではないですよね。所得面でも昇進面でもまだまだ男女間で格差があります。女性が相対的に低所得の状況に置かれやすいですし、他にも養育費が十分に支払われないなどの問題もありますので、全然優遇されていないわけですよ。資金面で市や国から支援を受けていても、そもそものスタートラインが違いますからそれは優遇ではないんです。ただ、「優遇されている」と思わざるを得ないという社会の状況が厳しいですよね。これからもっと理解を深めて、意識も制度も変えていかなければならないと思います。
     
  7. 支援活動の中で喜びを感じた瞬間はありますか。
     やっぱりご利用者の方とのやりとりにありますね。「ありがとうございます」の言葉はほとんどの方にいただきますし、TVで活動が取り上げられたときに取材の中で僕たちが知らないところで感謝してくれていて、「食糧配布だけでなく、ちょっとしたことでも声をかけてくれることがうれしい」という言葉が非常に嬉しかったですね。僕たちが心掛けている”コミュニケーション”を感じてもらえているんだなと思いましたね。
     また、学習支援活動として『てらこや』を開いていますが、参加してくれている子どもたちの出席率がものすごく良いんです。ほぼ100%なんですよ。これはとても嬉しいことです。元々自分から進んで「行きたい!」と思った子はあまり多くないと思うんです。でも、毎回来てくれて楽しんでくれているのを見ると「やったぁ!!」と感じますね。
     
  8. 『てらこや』で勉強を教えている方というのはどういった方々なのでしょうか。
     それもですね、さきほど申し上げた”しなやかに生きる”というのと関わってくるのですが、「いろいろな大人に関わってほしい」というのがあります。現役の学生さんやプロの塾講師、その他に元教員の方や、もちろん僕も教えていますし、企業に勤めている方も教えています。中には美大を卒業されている方もいらっしゃいますので、デッサンを教えたりもしています。その様子を見て刺激を受けた子がいれば、どんどん挑戦してみてほしいんです。将来美大に行くことができなくても、僕自身芸術は常に生活と共にあってほしいと思っています。以前新聞で取り上げていただいた時に、音大の学生から連絡がありまして、もしかしたらご協力いただけるのではないかというところまで来ています。この『てらこや』でいろんなことが学べて、いろんな人からの刺激を受けられますし、僕たち自身も活動の中で多くの刺激を受けています。この環境は”触発され合う場”になってほしいと思いますね。
     
  9. 「支援をしたい」という方もかなりいらっしゃるということなのですね。
     そうですね、実はそういった方が増えているんですよ。Facebookから申し出てくれた方や、現在支援活動に参加されている方のお知り合いが英語が得意だそうでご紹介いただいたりなど、たくさんいらっしゃいます。
     また、パントリーで配布しているお野菜は、農業ふれあいセンターという市の施設の近くにある直売所の方とのコネクションで提供していただいたりしています。他にもJAいるま野大田支店とのお話も進んでいますので、どんどん支援の輪が広がっていますね。
     
  10. やはりこういった支援活動に参加したい・支援してほしいという方に広く知ってもらうにはTVなどのメディアの力が必要不可欠なのでしょうか。
     勿論です。メディアで取り上げていただいてからの1週間は、「支援を受けたい」「支援をしたい」両方の方からのお問い合わせがありますね。やはりこういった支援活動をしているということを、メディアを通してもっと広めていく必要があると思います。
     
  11. 活動の中で苦労した・課題だと感じたことはありますか。
     こういった活動をしている中で人手不足だけでなく、食糧を保管しておくスペースや輸送手段が不十分であることが大変だと感じますね。食糧保管スペースのレンタルやそのための資金の工面では苦労しています。支援者への支援も必要になってくるので、埼玉県が『こども応援ネットワーク埼玉』を立ち上げて仲介をしてくれたりしていますけどね。活動を広く認知してくれたら、僕たちも活動がしやすくなりますので、幅広い支援をしていけるのではないかと思います。

     
  1. 一般市民にできる支援にはどういったものでしょうか。
     例えば『赤い羽根募金』であれば、皆さんの募金が僕たちのような団体へ行きわたり、支援活動に有効に使わせていただくことができます。また、『フードドライブ』という活動もあり、お歳暮など未開封で期限はまだまだあるけどたくさんあるので食べきれない…といったものを集めている団体もあります。

     

 例えば『フードバンク山梨』という団体はとてもいい活動をしています。この団体は、地元のスーパーマーケットに”絆ボックス”というのを設置して、「食べ物に困っている子どもたちへ皆さんの温かい支援をお願いします。」と未開封の食品を入れてもらうということをしています。僕も仕事の都合で山梨に行った時にはいつもお菓子など入れているのですが、いずれはこういった活動もしていきたいなと思っていますね。そうすれば皆さんもお買い物ついでに手軽に支援活動に参加できるじゃないですか。
 もう少しお金に余裕がある人であれば、僕たちのような団体に直接寄付してくださるのも1つですね。コロナ禍で10万円が支給されましたが、実は丸々僕たちに寄付してくださった方がいらっしゃったんですよ。そういった寄付も結果的に子どもたちの支援に使われていきますので、嬉しい限りですね。
 あとは、やっぱりこの問題について理解していただくというのがとても大きいです。こういった現状がある、こういう支援をしている団体がいる。そして、支援は優遇ではないこと。これが僕たちにできるせめてもの「サポート」である、というのを理解してほしいですね。理解が深まっていけば、社会が優しいものへと変わっていくと思います。

  1. 貧困に悩む人たちのために、今の日本ではどのようなことを行っていくべきでしょうか。
     難しい話ですけど、国が所得や労働条件、社会保障、非正規労働者でも生活していけるようなセーフティーネットづくりを1番にしていくべきなのではないかなと思います。どうしても非正規でなければ働くことができない方もいらっしゃいますから、そういった方でも十分に受けられる社会保障を設けていかなければならないのではないかなと思います。たくさんの事情があるのは分かりますが、もっとしっかり現状にマッチした制度作りが必要だと感じています。
     
  2. 新しく支援を始めたい方へ、アドバイスをお願いします。
     気楽にやってほしいという気持ちの一方で、やるからには覚悟を持って参加してほしいというのが本音ですね。始めた以上は簡単にやめられませんので(団体レベルの話ですが)、相応の覚悟は持ってほしいと思います。まずは自分のペースでできる支援活動(支援団体へのボランティア参加・寄付)から始めてみるのが良いと思います。関わり方にもボランティアから正会員や役員レベルなど、濃淡がありますから自分のレベルにあった活動の仕方を見つけていただければ良いのではないでしょうか。
     
  3. 今も貧困による悩みを抱えている子どもたちや保護者の方へのメッセージをお願いいたします。
    「一緒に生きていきましょう!」

     

この投稿へのコメント

コメントはありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

この投稿へのトラックバック

トラックバックはありません。

トラックバック URL